みなさん、こんにちは。GENOVAの広報担当です。

医師や看護師の不足、都市部と地方の医療格差、夜間の重症患者対応—。日本の救急・集中治療は今、医療従事者一人ひとりの努力だけでは乗り越えることが難しい、構造的な課題に直面しています。

とりわけ集中治療の現場では、専門医の不足と地域偏在が深刻です。

「専門医がいない地域では、重症患者をどのように支えるのか」
「夜間に一人で判断を担う医師や看護師の負担を、どう軽減するのか」
「新しい技術を、実際の医療現場にどう根づかせていくのか」

こうした課題への一つの答えとして、いま注目されているのが「遠隔ICU」です。離れた場所にいる集中治療の専門医や看護師が、ICTを通じて現場の医療チームを支援することで、距離や時間の制約を越えて専門的な知見を届けます。

今回お招きしたのは、2026年11月に開催される「第30回日本遠隔医療学会学術大会」で大会長を務める、横浜市立大学附属病院 集中治療部 部長の髙木俊介先生。対談相手は、同大会の大会長補佐を務めるGENOVA取締役執行役員・医師の井上祥です。

救急・集中治療の最前線で遠隔ICUの社会実装を進める髙木先生と、医療と社会をつなぐ仕組みづくりに取り組む井上。遠隔ICUが求められる背景から、医療DXを現場に根づかせる難しさ、そして遠隔医療が描く未来まで、二人の医師が語り合いました。

<対談者プロフィール>
髙木 俊介先生
横浜市立大学附属病院 集中治療部 部長・研究教授。株式会社CROSS SYNC 取締役会長。東京科学大学 医療イノベーション機構 パートナー戦略室 客員准教授、広島大学 救急集中治療医学教室 客員教授を兼任。救急・集中治療の臨床を基盤に、遠隔ICUをはじめとする遠隔医療や医療DXの研究・社会実装に取り組む。2026年11月に開催される「第30回日本遠隔医療学会学術大会」では大会長を務める。

X:https://x.com/shuncrosssync
第30回日本遠隔医療学会学術大会:https://lesbanc.co.jp/jtta2026/
遠隔医療PRESS:https://yokohama-cu-telemedicine.jp/

井上 祥
医師としてのキャリアのほか、医療×テクノロジー領域での事業推進、医療DXの企画・ 推進に従事し、現在は株式会社GENOVAの取締役執行役員として経営企画室・事業推進室を管掌しています。 専門は医療情報発信、医学教育。
「日本遠隔医療学会 第30回学術大会」大会長補佐。第20回日本デジタル医学会大会長。横浜市立大学研究・産学連携推進センター特任教授。

1. 医師でありながら、ビジネスと学術の最前線に立つ二人の接点

まず、お二人の出会いと、お互いの活動への印象からお聞かせください。

髙木先生:
井上先生と初めて一緒に仕事をしたのは、確か7〜8年前の「京都での集中治療医学会」の時でしたよね。私が広報委員をしていた際、学会の取材記事の執筆を井上先生に依頼したのがきっかけです。その当時から「医師でありながらビジネスの世界でバリバリ活動している面白い人がいるな」と注目していました。私自身も起業に興味があったので、先駆けとして走っている姿に非常に刺激を受けました。

井上先生:
実は、私がとても親しくしているバスケ部の先輩の親友ということで一方的に髙木先生のことは存じ上げておりましたが、本格的な初の接点は京都でしたね。懐かしいです。そして、私自身は、髙木先生の活動と自分の活動をそこまで遠いものとは思っていないんです。
髙木先生は大学病院の集中治療部のトップとして臨床の最前線に立ちながら、「遠隔ICU(集中治療室)」の普及に尽力されています。集中治療という医療の中でも特に難易度が高い領域を、遠隔技術によって“民主化”し、日本全国に届けていく。
一方で、私の活動も「正しい医療のエビデンスを医療情報発信を通じて社会に届ける(社会実装する)」ことです。アプローチは違えど、「医療のアクセシビリティ(アクセス性)を高める」という根底のミッションは、お互い非常に近いところにあると感じています。

髙木先生:
まさにその通りですね。遠隔ICUも立ち上げ当初は認知度がものすごく低かったので、広報や情報発信の重要性を痛感していました。そうした意味でも、井上先生とは当時から深い部分で繋がっていたのだと思います。


2. 医療現場が直面する「医師・看護師の偏在と不足」というリアルな限界

髙木先生は日々の臨床現場において、リソースの限界や医師不足をどのような瞬間に実感されますか?

集中治療専門医は必要数の「40%」にすぎない

髙木先生:
一言で言うと、日本の集中治療の現場は「慢性的な専門医不足」です。全国のICU(集中治療室)の病床数に対して必要とされる専門医のうち、実際に専門医資格を持っている医師は約40%にすぎません。しかも、資格を持っていても全員がICUの現場で専従できているわけではないため、実態としての充足率はさらに低いです。
特に深刻なのは夜間や、地方の医療機関です。夜間のICUは専門医ではない、普段は集中治療を専門としない他科の先生方が当直をして何とかカバーしているのが現状です。都市部に比べて地方はさらに医師が不足しており、特に救急・集中治療の夜間帯における手薄さは日々加速していると感じます。

医師だけでなく「看護師不足」も深刻なボトルネックに

髙木先生:
また、最近は「看護師の不足」も大きな課題です。ICUは国の基準で「患者さん2人に対して看護師1人(2対1配置)」を置く必要があります。しかし、看護師が不足しているために、本来ならICU並みの治療が必要な患者さんがいるにもかかわらず、基準を満たせず、やむを得ず「ハイケアユニット(4対1配置)」にケアレベルを落として運用せざるを得ない病院が全国にたくさんあります。
看護師さんにとっても、24時間気が抜けない過酷なICU勤務は負担が大きいため、訪問看護や美容クリニックなど夜勤のない分野へキャリアを移す方も増えています。働き方改革が進む中で、「夜間に無理をして踏ん張る」という働き方自体が、今の時代に合わなくなってきているのも要因の一つですね。

井上先生:
そこがまさに遠隔ICUが求められる理由ですよね。集中治療室は「最も緊急度が高く、命の危機に瀕している患者さん」を24時間管理する場所です。専門の医師や看護師のマンパワーがどうしても必要な場所だからこそ、テクノロジーの力で地方や夜間の現場を支援する「遠隔ICU」という仕組みが、日本に絶対不可欠なのだと強く感じます。

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対談は弊社ヒカリエオフィスにて

3. 日本遠隔医療学会 第30回学術大会への想いと「世界最先端」を学ぶ意義

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髙木先生:
今回は記念すべき「第30回」の節目となります。最近では「遠隔医療」「オンライン診療」という言葉自体の認知度は上がってきました。しかしその実態は、自由診療によるオンライン薬処方など、一部のカジュアルな利用に偏っている印象があります。
私たちが本当に社会に届けたいのは、「真に命を救うための、医療としての遠隔医療」です。技術も安全性もすでに確立されつつあるのに、なぜまだ私たちの日常に深く浸透していないのか。そのボトルネックを解消するために、行政や議員、様々な職種の方をお招きして、具体的な解決策を議論したいと考えています。

Google本社からの特別ゲスト、SoftBankなどのトップランナーが結集

髙木先生:
今回の大きな目玉として、世界最先端のデジタルヘルスを学ぶ特別なセッションを用意しています。なんと、米国Google本社から、デジタルヘルスおよびAI戦略ビジネスの世界的リーダー(Executive in Digital Health and AI Strategic Business Leader)を特別ゲストとしてお招きします。ちょうど開催時期に日本でGoogleのヘルスケアサミットがあるため、そのタイミングで学術大会にもご登壇いただけることになりました。世界基準のデジタルヘルスケアの未来を直接日本で聞ける、極めて貴重な機会になります。

井上先生:
そのセッションの前座として、ソフトバンク社(SB OAI Japan社)のビジネスリーダーを交えた、AIと医療ビジネスに関するディスカッションも企画しています。
世界最先端のAI技術と医療の掛け算が、今後日本の遠隔医療をどう変えていくのか。私個人としても、これほど豪華なメンバーが揃うイベントは過去に例がないとワクワクしています。

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株式会社CROSS SYNCの横浜ランドマークタワーオフィスにて

4. 社会実装(現場への導入)における本当のハードルとは?

遠隔医療や医療AIの「社会実装(実際に病院に導入し、定着させること)」における最大の難しさはどこにありますか?

「他の医療機関」と連携・合意形成をする圧倒的な難しさ

髙木先生:
「遠隔ICU」を一つの病院のなかに導入するだけでも大変なのですが、本当に難しいのは「自院と、他の複数の医療機関(サポート先)をネットワークで繋いで連携する」というプロセスです。例えば3つの病院と連携しようとすると、それぞれの病院に事務方、システム・医療情報部、そして現場の医師、看護師がいます。病院ごとに異なるルールや文化、そして「自分たちの医療体制に他者が介入することへの不安」があるため、全員の合意を形成して運用プロセスを構築していくのには、想像以上の時間と根気が必要でした。

自治医科大学との連携:へき地医療の次世代支援モデルへ

髙木先生:
その中で、最近では「自治医科大学」との遠隔連携スタートという素晴らしい進展もありました。自治医科大学は、全国の地域医療・へき地医療を支える医師を養成する大学です。若手医師が1人でへき地の病院に派遣された際、これまでは孤独に判断を迫られていましたが、遠隔ICUのネットワークを通じて、大学病院の専門医がリアルタイムでバックアップや教育を行える体制を作っています。これは、へき地の医療水準を底上げするだけでなく、「若手医師の教育・心理的サポート」という面でも非常に画期的なモデルです。


5. テクノロジーを現場に届ける「GENOVA」としてのミッション

井上先生が参画されている「GENOVA」では、今後この遠隔医療の流れの中でどのような役割を果たしていこうとされていますか?

大学病院の最先端医療から、クリニック・在宅医療の現場まで繋ぐ

井上先生:
GENOVAは、主に医科・歯科双方ともにクリニック(診療所)向けのサービス展開を得意としてきた会社です。
髙木先生が進めている遠隔ICUが「超急性期の最先端医療」だとすれば、私たちがアプローチできるのは、より生活に密着した「プライマリ・ケア」や「在宅医療」の領域です。
これからの日本の医療は、大学病院だけで完結するのではなく、地域のクリニックや訪問診療、さらには介護施設までをシームレスにテクノロジーで繋いでいく必要があります。「最先端の集中治療で培われた知見や遠隔の仕組み」を、より身近な地域の医療現場や在宅ケアの現場にもグラデーションのように広げていく。GENOVAとしては、その強固なネットワークと現場に寄り添うツールを提供することで、社会実装を加速させたいと考えています。


6. 未来への展望:医療に関わるすべてのプレイヤーへ

最後に、この記事を読んでいる医療従事者、GENOVAへの入社を検討している就活生、ステークホルダーの皆さんへメッセージをお願いします。

「医療の標準化」と「データ蓄積」で、持続可能な未来をつくる

髙木先生:
遠隔医療をただ「導入して終わり」にするのではなく、今後は「どのような効果があったのか」をデータとして可視化し、標準化していくことが次のステップです。
例えば、遠隔サポートを導入したことで、患者さんの状態がどう改善したかという臨床データはもちろん、現場の看護師さんの残業がどれだけ減ったか、夜間の当直医の睡眠がどれだけ確保できたかという「働き方改革」の指標も含めて検証していく必要があります。医療従事者自身が心身ともに健康に働ける環境を作ること。それが、結果として患者さんにより良い医療を還元することに直結します。ぜひ、新しい医療の形を一緒に作っていきましょう。

医療DXの挑戦には、多彩な才能と情熱が必要だ

井上先生:
医療業界は一見、非常にレガシーで変化を嫌う業界に見えるかもしれません。しかし、課題の規模が大きく、かつ人々の命に直結するからこそ、テクノロジーによる解決のインパクトが最も大きい、やりがいに満ちた領域です。
GENOVAをはじめ、医療DXを志す企業には、医師や看護師といった医療従事者だけでなく、エンジニア、デザイナー、ビジネスプランナーなど、多様な才能が必要です。医療現場のリアルな課題に真摯に向き合い、次の時代の医療インフラを共に創り上げる志を持った皆さんと、ぜひお仕事がしたいと思っています。皆さんの挑戦をお待ちしています!


編集後記|遠隔ICUが変えるのは、医療の「距離」だけではない

今回の対談から見えてきたのは、遠隔ICUが単に「離れた場所から患者さんを診るための技術」ではないということです。
遠隔ICUが変えようとしているものは、大きく3つあります。

1つ目は、「専門性へのアクセス」です。
集中治療専門医が不足し、地域による偏在もある中、すべての医療機関に十分な専門人材を配置することは容易ではありません。遠隔ICUは、距離を越えて専門的な知見を届けることで、医療の質を「患者さんや医療者がいる場所」で決めないための仕組みです。

2つ目は、「医療従事者の働き方」です。
夜間に一人で判断を迫られる医師や、緊張の続く環境で働く看護師にとって、いつでも相談できる専門家の存在は、大きな支えになります。遠隔ICUは患者さんの安全を守るだけでなく、現場の医療者を孤立させず、持続可能な医療体制をつくる可能性を持っています。

3つ目は、「医療DXの社会実装」です。
どれほど優れた技術でも、現場で使われ、定着しなければ医療は変わりません。病院ごとに異なるルールや文化、業務フローを理解し、多くの関係者と合意を形成する。その地道なプロセスまで含めて、初めて社会実装と呼べるのだと感じました。

遠隔ICUが目指すのは、人をテクノロジーに置き換えることではありません。専門性を必要な場所へ届け、現場で働く人を支え、患者さんがどこにいても必要な医療につながれる環境をつくることです。
医療DXには、医師や看護師だけでなく、多様な人材が必要です。医療現場のリアルな課題に向き合い、次の時代の医療インフラをつくる 。そこには、医療従事者以外の方にも開かれた、大きな挑戦の機会があります。
今回の対談が、遠隔医療や医療DXの可能性、そして医療の未来を支える仕事に関心を持つきっかけになれば幸いです。

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