みなさん、こんにちは。GENOVA広報担当です。

今回は、2026年8月27日に開催された「Total Advanced Care Symposium 2026(たかせEXPO)」の様子を、前編・後編に分けてお届けします。
「地域におけるケアの本質と可能性を語り合う」をテーマに開催された本イベントには、医療、介護、行政など、それぞれの立場から日本の医療を支える専門家が集まりました。
GENOVAからは、取締役執行役員で医師でもある井上祥が参加。「医療現場の最前線」では進行役を務め、登壇者とともに、これからの医療が向き合うべき課題について議論しました。
高齢者の低栄養、地域による医療アクセスの格差、増え続ける医療費、患者を支える家族の負担—。医療現場には、一つの技術や一つの職種だけでは解決できない課題が数多くあります。
前編では、佐々木淳先生、黒木春郎先生、五十嵐中先生の講演から、医療現場で今、何が起きているのかをご紹介します。

登壇者
佐々木 淳先生:医療法人社団悠翔会 代表理事・診療部長
黒木 春郎先生:医療法人社団嗣業の会こどもとおとなのクリニック パウルーム 院長/一般社団法人未来研究所臥龍 理事
五十嵐 中先生:慶応義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授
井上 祥(進行):株式会社GENOVA取締役執行役員 経営企画室長/横浜市立大学研究・産学連携推進センター特任教授
三浦 公嗣先生(コメンテーター):藤田医科大学 特命教授
石井 洋介先生(コメンテーター):おうちの診療所 中野 院長/株式会社omniheal 代表取締役

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講演後に登壇者全員で記念撮影

高齢者の「食べられない」を、老衰で終わらせない

最初に登壇したのは、20年にわたり在宅医療に携わってきた佐々木淳先生です。
もし、身近な高齢者が食事を取れなくなったら、あなたは「年齢のせいだから仕方がない」と考えるでしょうか。
佐々木先生は、「食べられない」という状態には解決可能な事象が隠れているかもしれないので、老衰だからと決めつけてはいけないと語ります。
その背景には、服用している薬や義歯の不具合、かむ・飲み込む力、食事中の姿勢、視覚や認知機能など、さまざまな原因が隠れている可能性があるからです。
高齢者は、一度失った体重や筋肉を取り戻すことが容易ではありません。病気の数値を管理するための食事制限が、かえって低栄養やフレイルを進行させることもあります。
佐々木先生の法人では、訪問歯科診療に加え、管理栄養士が自宅を訪問する「訪問栄養食事指導」に取り組んできました。
しかし、栄養支援を必要とする高齢者が多くいる一方で、こうした仕組みは十分に活用されていないといいます。
病気だけでなく、その人がこれからも食べ、動き、自分らしく生活できるかまで考えること。
そして、医師、歯科医師、管理栄養士、看護師、介護職などが連携し、必要な支援を届けること
。
身近な人の「食べられない」に直面したとき、その原因を丁寧に探る視点を持つことが、本人の生活と尊厳を守る第一歩になるのかもしれません。

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佐々木 淳先生

「制限する栄養」から、「身体を守る栄養」へ

「健康的な食事」と聞くと、塩分やタンパク質を控えることを思い浮かべるかもしれません。しかし佐々木先生は、すでに体重や筋肉が落ちている高齢者に一律の食事制限を行うと、低栄養やフレイルを進行させる可能性があると指摘します。
高齢者は体重や筋肉を失いやすい一方、一度減ってしまうと、元の状態に戻すことは容易ではありません。だからこそ重要なのは、病気の数値だけを見て食事を制限するのではなく、今ある体重や筋肉をどう守るかという視点です。
目の前の高齢者にとって、本当に必要なのは「食べてはいけないもの」を増やすことでしょうか。それとも、食べる楽しみや身体機能を保ちながら、その人らしい生活を続けられる方法を考えることでしょうか。
高齢者の栄養には、「制限する」ことを中心とした考え方から、食べる力と生活を「守る」考え方への転換が求められているといいます。

「患者がいる場所」を、診療の場にする

続いて登壇したのは、医療資源の少ない地域での診療経験を持ち、早くからオンライン診療に取り組んできた黒木春郎先生です。
体調が悪くても、近くに医療機関がなかったり、外出すること自体が難しかったりすれば、あなたは必要な診療を受けられないかもしれません。
黒木先生によると、オンライン診療は、神経発達症の子どもや、不登校・引きこもりなどで外出が難しい人、遠方に住む人にとって、医療へつながる大切な選択肢になります。
黒木先生が示したのは、「医療を受けるために患者が移動する」という従来の考え方から、「患者がいる場所を診療の場にする」という発想への転換です。
オンライン診療の価値は、単に通院の手間を減らすことだけではありません。距離や生活環境によって医療から取り残されてきた人に、新たな接点をつくることにあるのです。

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黒木 春郎先生

オンライン診療だけで、医療は完結しない

オンライン診療は便利な一方、画面越しの診察だけですべてに対応できるわけではありません。対面診療や検査が必要だと判断された場合は、地域の医療機関へ適切につなぐ必要があるといいます。
黒木先生は、遠方の患者にも安心して医療を届けるため、現地の医師と直接連携する「D to D to P」を実践してきました。大切なのは、オンラインか対面かを二者択一で考えるのではなく、患者の状態に応じて組み合わせること。オンライン診療の質と安全性を支えるのは、技術だけでなく、医療者同士の丁寧なコミュニケーションなのです。

医療費を減らすことが、医療の目的ではない

続いて登壇したのは、医療経済学を専門とする五十嵐中先生です。
五十嵐先生は、医療にかかる「お金」を考えるうえで、忘れてはならない視点を投げかけました。
もし医療費の削減だけを追求すれば、「何もしないことが最も安い」という極端な結論にもなりかねません。しかし、あなたが医療や社会保障に求めるのは、単なる負担の軽減ではなく、必要な医療を受けながら、健康で自分らしい生活を送れることではないでしょうか。
五十嵐先生は、医療費だけでなく、患者の生活の質(QOL)や、支える家族の負担まで含めて評価する必要があると語ります。お金はあくまで、より良い医療を実現するための手段です。限られた医療資源をどう生かし、あなたを含む一人ひとりの暮らしを守るか—その目的を見失わないことが重要なのだと語りました。

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五十嵐 中先生

データで測るべきなのは、「安さ」だけではない

病気になったとき、生じる負担は医療費だけではありません。通院や介護のために仕事を休むこと、付き添う家族の心身が疲弊することも、生活に大きな影響を与えます。
五十嵐先生は、患者本人の生活の質(QOL)に加え、家族などが担う「インフォーマルケア」や、医療従事者の負担も含めて評価する必要があると語りました。
医療の価値を正しく捉えるには、「いくら削減できたか」だけでなく、患者や家族が自分らしく暮らせているか、医療者が無理なく支援を続けられるかまで見ることが大切です。数字の先にいる一人ひとりの生活を捉えてこそ、データはより良い医療をつくる力になるのです。

現場の実感を、社会を動かすデータへ

コメンテーターとして登壇した三浦公嗣先生は、ICUでの早期栄養介入を例に挙げました。入室後、早い段階で栄養補給を始めることで、患者の回復を支えながら入院期間の短縮も期待できるといいます。
医療現場で「こちらの方が患者のためになる」と感じても、実感だけでは制度を変えることは困難です。その効果をデータで示すことで、栄養介入の価値が認められ、診療報酬の新設にもつながったといいます。
現場で生まれた気づきを数字で可視化し、社会の仕組みへつなげること。データには、医療の質と持続可能性をともに高める力があるのです。

医療費の削減が、誰かを切り捨てる議論にならないために

同じくコメンテーターとして登壇した石井洋介先生は、医療費や社会保障費の削減が強調されることで、高齢者や障害のある人を切り捨てるような議論につながる危うさを指摘しました。
限られた医療資源を有効に使うことは大切です。しかし、あなたや大切な人が支援を必要としたとき、費用だけを理由に必要な医療が届かなくなれば、本来の目的を見失ってしまいます。
「どれだけ安くできるか」ではなく、「誰もが必要な医療を受けながら、自分らしく暮らせるか」。石井先生の問いかけは、医療の持続可能性を考えるうえで、効率性と人の尊厳をともに守る視点が欠かせないことを示していました。

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コメンテーターの三浦 公嗣先生(左)、石井 洋介先生(中央)を加えての討論会

編集後記|医療現場の課題を、誰が、どう解決していくのか

3人の講演から見えてきたのは、医療現場にある課題の多くが、医療機関の中だけでは解決できないということでした。

高齢者の低栄養を防ぐには、医師だけでなく、歯科医師、管理栄養士、看護師、介護職などの連携が必要です。オンライン診療を安全に広げるには、テクノロジーだけでなく、地域の医療機関との関係づくりが欠かせません。そして、限られた医療資源を生かすためには、患者や家族のQOLまで含めて効果を捉え、データを制度へつなげていく必要があります。
では、こうした課題を踏まえ、これからのクリニックや地域医療は、どのような姿を目指していくのでしょうか。
後編では、5人の医師によるパネルディスカッション「クリニックの未来」から、在宅急性期医療、多職種連携、予防、テクノロジー、そして患者の生活に溶け込む医療の可能性をご紹介します。

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